人工物による自然創造

1. はじめに

 植物など自然物における形状や色彩を模倣したデザイン、鳥の郡行動を模倣した制御システムなど人工物をデザイン・設計する際に自然物にアイデアのヒントを得ることはこれまで多く行われてきた。

一方、技術の発展や環境保護意識の高まりに伴い人工物で自然物を再現しようとする試みが昨今増えている。人間の手により、人工的に自然物を創造しようとする取り組みである。本記事においては、こうした人工物による自然創造の取り組みをまとめ、今後の人工物と自然物の関係性や環境問題の考え方を改めて考察する機会としたい。

2. 人工的自然物の事例

 今後追加して行く予定だが、現段階では「人工花」「培養皮革」「人工降雨装置」の三点について記述する。

2.1. 人工花

 オランダのデザインファームであるAtelier Boel houwerは都市部の自然減少により、花が不足し、昆虫の減少に帰結していることを指摘し、人工花のデザインを行なっている。同団体は、都市部に多くの花を作ることができれば、昆虫の個体数増加や繁栄に貢献しうるとして、人工花のデザインに取り組み始めている。受粉のビック5と呼ばれるミツバチ、マルハナバチ、ホバエ、蝶、蛾に対して、緊急の食料の提供を行う。

人工花には3Dプリンタで作られた容器に砂糖が蓄えられており、雨水が砂糖と混ざり、砂糖水となり、容器に蓄積される。こうして蓄積された砂糖水が昆虫にとっての食料になるという仕組みである。レーザー加工がされたポリエステル素材の花びらは形状や色を昆虫を惹きつけるものとしている。

Atelier Boelhouwer

2.2. 培養皮革・培養肉
 長い間注目されている技術や取り組みとして、培養皮革が挙げられる。培養皮革の大きな目的の一つとして、動物を犠牲にすることなしに革を提供することができることである。人間の皮膚の培養による皮の生成や、ZOAの採取した動物のDNAからレザーに近い培養皮革など多くの取り組みが行われている。こうした培養皮革はごく小さな細胞やDNAから大きなレザーを生み出し、また動物や環境にも優しいとされている。

Modern Meadow

 昨今では、こうしたバイオの技術を活用する事例は、培養皮革ではなく、食用の肉を培養し生成する培養肉など多様な目的で活用されている。培養肉では、牛の幹細胞を培養し、食用の肉を生成し、実際にハンバーガーとして食事することができている。現時点においては高額な費用がかかるものの、今後の発展が期待されている。

 先ほどの培養皮革でも同様であるが、培養肉においても、従来の生産方法(培養肉の場合は牛の飼育から提供まで)との環境的なコストの比較を指摘することが多い。培養肉では、牛を飼育する際に発生する環境的なコスト(牛の消化器官からのメタンや一連の行程で発生するエネルギー、生産に使われる水や土地などの量)を抑え、環境問題への貢献を行えるとしているが、培養肉の生成時にも多くの二酸化炭素を発生しており、環境的なコストが長期的に見ると、どちらが優位であるかは明確ではないと指摘する論文もある。

Maastricht University『Cultured Meat』

 以上のように、培養技術により、人工物や食料の生成を多く行われているが、そのメリットやデメリットは深く考察する必要性がある。

2.3. 人工降雨装置

 中国政府の「中国航空宇宙科学技術公社(CASC)」はスペインの国土の約3倍もの広さを持つ、人工降雨装置の建築をチベット高原において実施している。恒久的に水を供給し続けるために、固体燃料の燃焼室において雲の元となるヨウ化銀を生成し、降雨の発生を試みている。同装置は報道によるとメンテナンスなしで数ヶ月の間使用し続けられるという。この計画によると、中国の年間水消費量の約7%の水供給が可能になるという。

 しかし、こうした自然のコントロールは、予想外の事態になる場合が多い。アメリカでのハリケーンにドライアイスを打ち込むことで進路を変えることを実現したが、他地域で予想外の被害を受ける結果になったことや、北京オリンピックで開会式を快晴にした試みを多くの専門家が偶然であると指摘するなど、天候をコントロールするという神の領域へのアプローチの実現性にはまだ懐疑的な部分も多い。

3. 考察

 本記事では、3つの人工物による自然物再現事例を挙げたが、人工花は「自然回復」、培養皮革・培養肉は「人工物・食料の恒久的な生成と提供」、人工降雨装置は「自然のコントロール」などそれぞれが異なる目的を持つ。

 人工花は代替的に自然物を人工的に構築するのではなく、あくまで人工的なメリットを活かして、自然環境における課題解決に取り組むなど今後の人間と自然との関わり方に大きな視座を与えてくれる。

 人類は技術を発展させる過程において、自然物の破壊に至っている一方で、昨今は発展した技術で自然回復やコントロール、生命の再現など「神」的な領域のアプローチを行い始めている。「神」的な領域のアプローチであるため、予想外の事態の発生などリスクも大きい。技術的な凄さに飛びついたり、利己的な目的にならず、自然へのリスペクトを持ちながら、その効果やデメリットも深く考察しながら、人工物による自然創造を考えていく必要性があるだろう。

参考文献

・ATELIER BOELHOUWER『insectology food for buzz』,〈http://www.matildeboelhouwer.com/insectology-food-for-buzz/

・John Lynch and Raymond Pierrehumbert (2019)『Climate Impacts of Cultured Meat and Beef Cattle』

・Maastricht University『Cultured Meat』,<https://culturedbeef.org/

・Jessica Miley(2018)『China Is Building a Rain-Making System Three Times as Big as Spain』,INTERESTING ENGINEERING,<https://interestingengineering.com/china-is-building-a-rain-making-system-three-times-as-big-as-spain

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